こちらも7月に整理した際、初めて出てきた布です。特に古い布から前回の樹皮布のように比較的新しい布まで、選別して蒐集していましたので、よくある普通レベルの布を出品することはございません。この布もアンティークと自信を持って言える希少な一枚です。サマーセールとして大変リーズナブルに出しますので、インドネシア染織のお好きな方に持っていただければと願っています。
　同時出品中の金糸ソンケットと同じ時期に、昔スマトラ島で入手した布ですが、タイプが全然違います。ソンケットに仕事は及びませんが、こちらはより古く、プリミティブなパワーの感じられる一枚です。7枚目画像のように接写すると白っぽく写ってしまいますが、1、3枚目が実際の色味に近いかと思います。
　この布は、インドネシア スマトラ島南部 ランプン州（クルイ地方）の「タンパン」という祭儀用布です。用途は、結納品の包み布や新築の際に梁の上に置く魔除け布などとして用いられました。タンパンの評価は、文様構成と織りの緻密さにあります。幾何学（抽象）模様だけのタンパンは、比較的よく残っているものです。この布の中央部分は、非常に緻密な縫取織がほとんど隙間が無いほどびっしりとなされています。織り込まれている文様は、死者の魂を天上界に運ぶ霊船で、この布は、「霊船布」とも呼ばれています。霊船文様の中心には、宇宙木が表されており、船には人物、鳥、家畜等が乗っています。人像文は、祖先を象徴しています。
　大きさは、約65㎝×63㎝、天然染料、手紡ぎ糸で織られた19世紀（1800年代）〜それ以前の古布です。7枚目繊維のアップ画像からも時代のある布だと分かります。
　最近、同じ色味のタンパンが掲載されている専門書を入手しましたので、2枚目参考画像をご覧ください。昔は、この手のタンパンは、19世紀とされてきましたが、炭素14年代測定により、19世紀以前との見方もされるようになりました。
　「スマトラ　タンパン」(Sumatra tampan)で検索しても、時代のあるタンパンは、博物館所蔵のもの以外ほとんど出てきません。特に、赤色中心のこの霊船文様のタンパンは、より時代が古くあまり無いもので、評価の高い布です。
　タンパンは通常、その用途から、ボロボロになって一部しか残っていないことが多いものです。この布は、傷みが多くあるものの全て補修されています。ごく小さな傷みも補修されているので、大切に使われてきた布なのでしょう。一番大きな補修部分は、9枚目画像中央右の黄色で囲んだ箇所です。その他の補修部分は、8、9枚目画像の緑色で囲んだ部分をご覧ください。表側からは分かりづらく、裏側（10枚目画像）を見ると、補修箇所がよく分かるかと思います。この布の時代を考慮すると、全体が残っており、鑑賞を妨げる傷みではなく、許容範囲ではないでしょうか。他に透かして分かる経年の繊維の摩耗や汚れがあります。タンパンには時代の下る写しも多く注意を要する布ですが、上記の傷みも長い歳月を経てきたオリジナルである証と受け止め、古布にご理解のある方のみ、ご入札をお願いいたします。
　これほど時代のあるインドネシア染織には、今ではもう出会えないものです。特に、この色合いの霊船文様のタンパンは、本当に残っていません。昔のコレクション整理のため、大変リーズナブルかと思います。プリミティブな布がお好きな方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。

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