
Model H-500 1952
ゼニス社オーナーのE.Fマクドナルドが、彼の所有する外洋クルーザーの自室に装備して、海洋の果てからでも
世界中の放送を聴くことができる、ヘビーデューティーなセットを望んだことから開発されたシリーズ ”トランスオセアニック T/O”
1951年~1954年のH-500は24万5千台生産され、時の朝鮮動乱のミリタリーモデルとも合わせて
相当数が米軍や、米国政府あるいは民間人によって我が国や、朝鮮半島に持ち込まれていたと思われます。
今回ご紹介の1台の出自は、筐体内に丸めて押し込まれていた「宮内庁 9号便箋」のメモ書きが物語るように、
宮内庁調達機材、あるいは職員所有機材と見て間違いないでしょう。
内部に大変に興味深い歴史の一ページを抱いたまま、永い眠りに就いていたのでしょう。
73年の時を経て整備、リフレッシュされ、機能を取り戻しました。
この機に秘められた歴史とともに、ぜひともご検討くださいませ。
機器概要
・電池管1U4(RF), 1L6(CONV), 1U4(IF), 1U5(DET), 3V4(OUTPUT)の5球+セレン整流器。
・高周波1段増幅シングルスーパーヘテロダイン。
・電源はAC117~100Vと、バッテリーオペレーション(A電池9V、B電池90V)
・アンテナ3系統(キャビネット内蔵AMループアンテナ、SWロッドアンテナ120cm、ワイヤーアンテナ)
・受信周波数 中波、短波2~4MHz、4~8MHz、16m、19m、25m、31mの計7バンド
・トーンコントロール4ポジション
整備内容
・不良チュブラーコンデンサの交換
本機はスプラーグ社バンブルビーが使用されていましたが、全て値が一桁変わっていましたので止む無く交換しました。
・電源フィルターコンデンサチェック
リプルも少なく、健全性を確認しました。
・ドロッパーの抵抗値調整
AC100Vにて各部規定電圧が出るようにドロッパー抵抗を130Ωからから65Ωに調整しました。
・整流素子のチェック
セレン整流器は正常電圧を発生し、健全性を確認しました。オリジナルのセレンは貴重です。
・受信感度調整
テストオシレータを使用
・美装
特に気を配ったのは、前蓋をリフトした際に、表に出るWAVE MAGNETループアンテナ周りの色目です。
マクドナルドが愛したT/Oの、その名にちなんだ色、 "オーシャンブルー" を調色のうえ塗装しています。
そして、ケースに施したブラックのトーンは、青5%、紫10%を含みます。品の良い半艶としました。
・発見物の保存
筐体内部に押し込まれ、くしゃくしゃに丸められた宮内庁9号便箋には、肉、野菜、カレーの数量を示す文字が書かれています。
これはあまりに非日常にして、日常の一コマが切り取られたかのような世界です。
とんでもない副産物が出てきたものです。解釈は皆さまにお任せします。
当然、このメモは筐体内に戻させて頂きます。
このT/Oの時代、ハリクラフターズやRCAから同様のスタイルを持つ競合品、いわゆる”T/Oクローンズ”が相次いで発売されています。
それぞれの良さがありますが、T/Oの持つ風格、豪華さ、造作等のデザイン性やブルジョア感は、他の追従を許しません。
ゼニス社オーナーの所持品として、ふさわしい物であらねばならなかったT/Oには、他社品では出せない特別なオーラがございます。
もしや、皆様にも何かしらのオーラを感じて頂けたなら、T/Oのレストレーションは成功したと言えましょう。
今回、念入りなレストアを期しましたが、全てを取り戻せた訳ではありません。
前蓋の口金金具に欠損部分があります。
バッテリー動作は未確認です。どうしても残る傷などあります。
さすがは遠距離受信を前提にした製品だけあって、素晴らしくDXが効きます。
中波は前蓋内蔵ループアンテナで、短波はロッドアンテナで十分聞けます。
電池管ながらも音量は十分、音質は細かな調節が効いて聞きやすいです。
この時代、既にトリプルスーパーの通信機型受信機が確立されていますが、
Trans Oceanicは、ポータブルであることを前提に、電池管セットの性能を追,求したものになります。
その狙いの当否は・・・T/O全シリーズ62万台の生産台数が雄弁に物語っているのです。
本機は、当方での受信確認を経てはいますが、受信はご住居の地域、環境、構造に大きく左右される部分です。
また、整備品とはいえ本機の構成部品は74年の経年につき、コンディションの変化もあり得ます。
ご理解の上のご入札をお願い申し上げます。