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◎著者の東後勝明氏は、かつてNHKの『ラジオ英語会話』の講座を担当し、その美しく歯切れのよい発音で聴取者を魅了しました。前任者の松本亨氏同様、英語教育界（特にコミュニケーション能力育成分野）におけるレジェンドのひとりに数えられています。本書はその東後氏の自叙伝です。一般的に「英語の達人」と呼ばれる方々には、常人にはまねができないようなエピソードが枚挙にいとまがないほどあります。その例にもれず本書にも、「辞書の一冊丸暗記」「苦情を避けての墓地でのゲティスバーグ演説の暗唱（警官に不審者扱いされたが、暗唱を聞かせられた警官は退散）」「発音・発声法の練習でポリープができたのどの手術」等々、ため息が出るような逸話が次から次へと出てきます。しかし、そのような英語の習得・研究にかける情熱とは裏腹に、数度の留学、長年にわたるラジオ英語講座の担当、大学・短大での学生教育などにおいて、家庭を顧みない自己中心的な行動も多々あり、後年はお子様の不登校に悩まされました。皮肉にも大学では学生のカウンセリングを担当し、家庭では家族カウンセリングも受けながら出口のない悶々とした日々が続く中、子供が助けを求めていたキリスト教教会の牧師に「子供は家族の人間関係の犠牲になっている」と指摘され、自分のこれまでの子育てや家族への配慮のなさをいやというほど思い知らされます。その後洗礼を受け研鑽を重ねるうちに、遅まきながら人間として成長し、学生のカウンセリングにおいても心の耳で話を聞けるようにもなったとも述べています。いずれにせよ、興味深く刺激的な一冊です。