
孤高を恐れず、内省と仲間にチャンスを与えた2nd。
ウータン・クランは衝撃だった。ぼくはちょっと後追いで彼らを知ったのだが、それでもほぼリアルタイムで全盛期な一週目のソロ活動を追えたことは幸いに思う。
彼らのイメージは水滸伝の梁山泊。字を持つ多士済々な顔ぶれが揃い、一握りの中心メンバーがグループを組んだイメージ。
クロスビートの姉妹誌Frontの94年1月にGZAのインタビューがある。当時にそれを読んで、メンバー以外にさまざまな顔ぶれが背後にファミリーとして控える様子にワクワクしたものだ。
ウータン・ファミリーを紹介してもらえるか、の質問へそのインタビューで次のようにGZAは答えてる。
ドレディ・クルーガー、フレディ・クルーガーのFをDにしたやつ。あとはキラー・プリースト。サイエンティフィック・シュバス、12オクロック、62ndアサシン、ブルータル・マック。色んなのが揃ってんだよ。ドランキン・マスタ。どんどん出てくるぜ。
実際、キラー・プリーストを筆頭にウータンの関係グループは現在までに膨大だ。
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Wu-Tang_Clan_affiliates
音楽的に言うとP-Funkをイメージしてた。P-Funkは後追いだったが、次々に手を変え品を変え溢れるファンクネスを、ラップとはいえ楽しめるだろうと当時は思ってた。
実際、1stから一週目のソロは素晴らしいものばかりだった。このURLがその流れを見るのに手っ取り早い。
https://rateyourmusic.com/list/Vocab/a_complete_guide_to__wu_tang_clan/
本体の1st"Enter the Wu-Tang (36 Chambers)" (1993)のあと、メスの"Tical" (1994)。
さらにODB"Return to the 36 Chambers: The Dirty Version "(1995)、レイクォン"Only Built 4 Cuban Linx..." (1995)、GZA"Liquid Swords" (1995)に、Ghostface Killah"Ironman(ムキムキマン)" (1996)。
何と言うつるべ打ち・・・。
そして満を持して発売が本盤だった。しかも2枚組のボリュームで。
けれども聴いてみたら、アレ?って首を傾げた。実際、どのガイド本や紹介ブログを見ても1stより本作を褒める記述に当たったことが無い。
もちろん僕も同意見。1stは問答無用の大傑作。2ndの本作は、華に欠ける。
とはいえ久しぶりに本盤を繰り返し聴いてるうちに、熟成されてじわじわと沁みることに気が付いた。
結局、ぼくは2ndに1stの二番煎じを期待してただけだった。
同じことを拡大再生産が、商売面では手っ取り早い。しかし創作の立場としては本意で無いのだろう。新しいこと、次のこと。それを目指すと思われる。
ここでややこしいのがラップの本質の一つとして、音楽的な表現活動の一方で、のし上がる手段でしかないこと。実際、それだけのカネが稼げるらしい。一発当てて満足し、腑抜けるパターンがどれだけ多いことか。
1stと一週目のソロで音楽的な肝はRZAだった。パッドの手打ちでハイハットを打ち込んでたという乾いたリズムを筆頭に、不穏に揺れるサウンドがウータンの特徴である。
そのうえで本盤は、シンセと生楽器を取り入れて音楽的に幅を出した。
さらにファミリーにもチャンスを与えた。
RZAが音楽的にどの程度、1st以降に思い入れがあったかよくわからない。1stと一週目ソロは本当に凄かった。しかしそのあとは、抜け殻とまでは言わないが、なんだかピントがボケている。
新しいことと自らの個性のバランスを模索しつつ、結局は「金があるからいいや」と妥協してる風なもどかしさを感じてしまう。
本盤もそうだ。弦を入れたり生リズムを入れたり。さらにファミリーを入れて豪華にしつつも、フックが弱い。派手なキャラクター設定が無い。地味だ。
その地味さ、こそがRZAの狙いであり冷や水なのかもしれない。
ゲストを大勢読んで話題性を作るのは簡単だ。実際、3rdはその路線に向かった。
けれど本盤では敢えてメンバーのキャラクターを抑えた。内へ籠る静かでシンプルな構成を徹底して、ヒット曲をあざとく狙わない。
それぞれの個性を踏まえてラップを聴いたら、違う側面もある。だが喋る内容がよくわからず、あくまでサウンドとして本盤を捉えるような外国人の適当な聴き方で本盤へ触れているため、本盤はぼんやりと冗長に思えてしまった。
でもそんな路線を敢えて二枚組のボリュームで打ち出したこと自体が、ウータン・クランの大胆さ、なのだろう。
本盤ではRZAのプロデュースを基調にしながら、ファミリーの4thディサイプルやトゥルー・マスター、インスペクター・デックにもプロデュースのチャンスを与えた。
ラッパーも後にメンバーとなるカパドンナを筆頭に、数々のファミリーを披露した。
RZAの、GZAの頭には本盤をとっかかりに二週目を始めて、さらにウータンでアメリカのラップ業界を牛耳ろうって思惑だったのだろう。
実際、二週目も始まった。ちょいとパンチ力が弱まり、金持ちの余裕がチラついてはいたけれど。
本盤は諸手を挙げて褒めづらい。しかし悪くはない。RZAのリズム感は全編を覆い、シンセや生楽器を使いながらも、音を重ねすぎずクールさを保っている。
マイク・リレーのダイナミズムは言うまでもない。この頃は不仲も無かったのかもしれない。
全曲で全員が参加するトゥーマッチさはもちろん避けつつ、"Triumph"のようにガッツリとウータン全員参加で盛り上げも行った。
たぶんRZAは「何をやっても本盤は売れる」と思ったのだろう。だから大胆に実験も行えたし、淡々と密やかなファンクネスも追求できた。
この盤はシングル3枚も収録した。だが本質は非シングル曲の地味さにある。リズムとシンプルなトラックで、淡々とラップしていく。売れ線狙いもイキったヤカラ気取りの演出もいらない。
ただ淡々とトラックを作り、ラップを乗せる。それだけで、ウータン印になる。二作目のプレッシャーも気にせず、信じる道を無造作に表現した。そんな潔さが本盤の特徴なのだろう。
2ndでなぜ"フォーエバー"と高みに立った自信を冠したのか。それだけの地歩を築き、「ここから後は好き放題やるぜ」って宣言だったのかもしれない。
だから本盤は1st目より劣る、と安直に評価すべきではなかった。これが最近の感想だ。
盛り上がりもさほどなく、メンバーの個性も使わない。二枚組の取っつき悪さもいとわない。
ひたすら地味。その勇気こそが本盤の凄みである。
試聴のみ。大変綺麗な状態です。
邦盤。2CD。
見本盤。