
日本ビクター 6R-75 1940.3.31認定 放11131号
最高級を謳うラジオは多くありますが、この機については超高級と言っても良いでしょう。
太平洋戦争開戦の前年、中国戦線の拡大により既に物資が不足するなかで造られた
高周波一段増幅付スーパーヘテロダイン。
何を省略することもなく、むしろハイスペックを極めた超一流品。
・コイル、IFTはリッツ線ハネカム巻きのハイ・インピーダンス型で高性能。
・当時最新鋭の7極真空管 2A7を用いたコンバーター。
・双二極三極管 2A6による本格的な遅延AVC。
・アンプ部は”マジックヴォイス”と称するNFBが掛けられており、音質調節はNFBのオン・オフ
シャシー内部に配した出力トランスのセカンダリーにNFBの3次コイルが巻かれている。
・フィールドコイルがあるのにもかかわらず、スピーカーに抱かせてチョークコイルを装備。
・真空管
UZ-58 マツダ 高周波増幅
Ut-2A7 マツダ 局発、混合
UZ-58 ダイン 中間周波増幅
UZ-2A6 マツダ第二検波、AVC、電圧増幅
UZ-2A5 Super Airline 電力増幅
以上、2.5V管
KX-80 整流 TUNG-SOL USA
等々まことに豪華な仕様です。
これらをビクター特有の深いシャシーに内部は三層、上部は二層に部品配置してあり、
これを組み上げるのは相当な職人技でしょう。当然レストアも根気が必要です。
実はこのラジオ、魚の名前のとある有名レストアラーがかつて手掛けた機になります。(検索できます)
私の手元に来たときには、発振が酷く、IF管のトップグリッドを触っていないと受信しない状態でした。
ケミコンは全て交換されておりますが、ペーパーチュブラーコンデンサは全て古い物です。
真空管は計測されて、テスターの数値が残っています。
電源プラグは交換されたうえ、ニュートラルを示すNの字が記されています。極性により発振が強まります。
さて、ペーパーコンデンサは全交換です。ですがどうしても一番深い層に配された大きなコンデンサに手が付けられない。
上層の配線を本格的に撤去しないと替えられないのです。
横着してその状態で通電すると、果たして発振は収まりません。コンデンサを調べると見事に死んでおりました。
このバイパスコンデンサを交換してようやく発振が止まってほっと一息。
ACプラグの極性も気にすることが無くなったので、とっておきのアメリカ製の茶色のポニーキャップに替えました。
実際の性能には驚くべきものがあります。
さすがは高一、素晴らしい感度です。受信に難のある自宅名古屋のコンクリートマンションにて昼間NHK2局を受信。
(普通は1局しか入りません) 工房のある兵庫県ではローカル局がどんどん入り、6.3V管スーパーを上回る実力。
さらに音が良く、長時間聞いても疲れないのです。標準型スーパーに飽き足りない方、
戦前国産スーパーヘテロダインの実力がどの様なものであったのか、是非お確かめください。
(聴取に際し、最低数メートルのリード線をアンテナ端子におつなぎ下さい。)
国策の名のもとに数々の制限が課せられ、国策ラジオに傾いたラジオ業界を尻目に、持てる技術を余すことなくつぎ込んで
最高の物造りをした日本ビクターに、私は最大の敬意を払いたいと思います。
(2025年 9月 7日 9時 32分 追加)チョークコイルをフィールドコイルの前段に入れてハム消しをする手法は、非常に効果的と感じました。マジックボイスと併せて、聞き疲れがしない訳です。