一曲目からとんでもないものを聴かせてくれる。ジプシー・スィングの巨匠ジャンゴ・ラインハルトに捧げられたジョン・ルイスの名曲「ジャ
ンゴ」をなんとジェフ・ベックとツイン・ギターでプレイするのだ。落ち着いたイントロから味がある。テーマをはっきりと演奏するのでは
なく、マクラフリンとベックが少しずつ音をずらしながら、互いに牽制するかのように、それでいて旧知の仲らしく提示する。「ジャンゴ」に
はMJQのオリジナルの他、ミシェル・ルグランとマイルス・デイヴィスのような名演もあるが、マクラフリンとベックのプレイもそれらに匹敵
する名演だ。一曲目からいきなり途轍もない演奏だが、このアルバムはそれだけでは終わらない。5曲目El Ciegoではアル・ディ・メオラ、マ
クラフリン、パコ・デ・ルシアのスーパー・ギター・トリオが再結成される。『フライデイナイト・イン・サンフランシスコ』と『パッション
・グレイス&ファイアー』という二枚のアルバムで全世界のギターファンの度肝を抜いたギタートリオが一曲だけとはいえ再結成されたのだ。
これ以上の出来事が音楽界に他にあるとも思えない。こう収録曲を紹介すると、輝かしい業績を誇るマクラフリンが旧交を温めている自伝的な
作品なのかと思われるかもしれない。確かにそのような側面はある。なにしろデイヴィッド・サンボーンやスティングまで呼び寄せ、60年代以
来の友人たちをかき集めたように見えるのだ。だが、それだけでもない。アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシアとのスーパー・ギター・トリ
オはこの直後再結成され、翌年1996年にはThe Guitar Trioというニュー・アルバムを発表することになる。また2曲目「セロニアス・メロディ
アアス」を録音したジョーイ・デフランセスコとデニス・チェンバースは96年当時マクラフリンが率いていたトリオ、「フリー・スピリッツ」
の二人であり、メンバーは過去を回顧したものではない。またマクラフリンのインド趣味を詰め込んだThe Wishにはザキール・フセインとト
リルク・グルトゥが参加している。ザキール・フセインは70年代のシャクティ以来の仲だが、トリルク・グルトゥはLive at the Royal Festiva
l Hall (1990, ), que alegria (1992)のメンバーであり、振り返るほど古い過去の人物ではない。しかもインド音楽を素材としたマクラフリン
のシャクティはメンバーを少しずつ変えながら、その後も継続的に活動し、Remember Shakti (1999), Believer (2000),Saturday Night i
n Bombay(2001)などのアルバムを発表している。このアルバムは確かに旧友との再会に注目されがちではあるものの、単なる回顧的な自叙伝
ではなく、現在進行形の作品でもある
1 | Django |
2 | Thelonius Melodius |
3 | Amy And Joseph |
4 | No Return |
5 | El Ciego |
6 | Jazz Jungle |
7 | The Wish |
8 | English Jam |
9 | Tokyo Decadence |
10 | Shin Jin Rui |
11 | The Peacocks |