中山忠彦（1935年福岡県生まれ、2024年9月24日逝去）は、白日会の元会長であり、日本美術界を牽引した洋画家。18歳で上京し、伊藤清永に師事、阿佐ヶ谷洋画研究所・伊藤絵画研究所で研鑽を積み、19歳で日展初入選。日展や白日会展を主な舞台に活躍し、1996年に日本芸術院賞、1998年に日本芸術院会員となる。2002年に白日会会長、2009年には日展理事長を務め、2015年より白日会終身会長。2019年には旭日中綬章を受章。28歳で出会った良江夫人をモデルに、19世紀ヨーロッパのアンティークドレスを纏う華麗な女性像を描き、壮麗な色彩、計算された構図、卓越した筆致により、単なるリアリズムを超えた気品と風格に満ちた写実絵画を確立した。

中山忠彦「ブルーネックレット」油彩 共シール 円窓
本作「ブルーネックレット」は、日本洋画界を代表する写実画家・中山忠彦による、気品に満ちた女性像です。画面には、青緑のドレスをまとい、深い藍色のチョーカーを首に巻いた横顔の女性が描かれています。チョーカーには花の刺繍が施され、耳元にはグリーンのイヤリングが揺れ、静謐な中にも華やかさが漂います。整った横顔と穏やかなまなざし、しっとりとした髪の流れが、内に秘めた強さと優しさを同時に表現しており、見る者の心を静かに捉えます。

丸型の画面は、まるで古典的なカメオや懐中時計を思わせ、人物の存在を時の中に封じ込めるような詩的な効果を生んでいます。背景の落ち着いた緑は、女性の肌の白さと衣装の青を引き立て、作品全体に調和と奥行きを与えています。中山忠彦は、生涯を通じて美と気品を追い求め、19世紀ヨーロッパの衣装や装飾を纏った女性像を、卓越した写実技法で描き続けました。本作もまた、彼の美意識と絵画構成の妙が凝縮された一枚といえるでしょう。