Salmon Fishing(Medlar Press edition)は、英国を代表するタックルメーカー〈ハーディー家〉の一員であり、優れた実践的アングラーでもあったJohn James Hardyによる名著の復刻版です。20世紀初頭に著された本書は、サーモンフィッシングが英国スポーツ文化の中核を担っていた時代の空気を色濃く伝えつつ、実践的かつ体系的な解説で高く評価されてきました。
クラシック・サーモンフライ界で知られる沢田賢一郎氏にまつわる逸話のひとつに、この本ををついに入手できなかった、という話があります。
沢田氏は、19世紀から20世紀初頭にかけての英国古典文献を徹底的に蒐集・研究し、その記述をもとにクラシック・サーモンフライを再構築した人物として知られています。彼のタイイングは単なる復元ではなく、当時の文献に記された比率、素材指定、工程順序を厳密に読み解き、可能な限りオリジナルの思想に近づこうとする姿勢に特徴がありました。そのため、資料収集は創作活動そのものといえるほど重要な意味を持っていました。
その中で『Salmon Fishing』は、ハーディー家の一員による実践的サーモンフィッシング論として、当時のフライ運用やパターン選択の思想を知るうえで極めて重要な一冊と考えられていました。特に、単なるパターン列挙ではなく、「どのような状況で、どのような意図でそのフライを使うのか」という運用思想が記されている点が、沢田氏にとって大きな関心の対象だったといわれます。
しかし原書は流通数が限られ、長らく入手困難な稀覯本でした。沢田氏が文献蒐集を精力的に行っていた時期、日本国内はもちろん海外でも容易には見つからず、古書市場に出ても高額で取引されていました。結果として入手が叶わなかった、あるいは「ついに手元に置くことができなかった一冊」として語られるようになったのです。
この逸話は、単に希少本を逃したという話ではなく、沢田氏の探究心の深さを象徴するエピソードとして受け継がれています。彼にとって文献は装飾的な知識ではなく、一本のフライを巻くための思想的基盤でした。入手できなかった一冊があるという事実は、逆説的に、彼がいかに真摯に古典と向き合っていたかを物語っています。
後年、Medlar Pressから復刻版が刊行されたことで本書は広く読めるようになりましたが、沢田氏の時代には「幻の一冊」として特別な存在感を放っていました。その逸話は今も、クラシック・サーモンフライを志す人々のあいだで語り継がれています。
そのような貴重本ですので是非この機会をお見逃しなく!
※古書にご理解のある方のみご購入をご検討ください。
※仕事柄迅速に対応出来ないことがありますが、最後まで誠意をもって対応いたします。