静かに語りかける姫路の幻――鷺脚焼 湯沸の風雅

姫路の焼き物の中でも、「幻」と称される鷺脚焼（ろっきゃくやき）は、明治11年（1878年）、姫路市西小姓町にて中川鷺脚が創設した小さな窯にその起源を持ちます。

中川鷺脚は、当時の先進的な製陶所「姫路永世舎」の窯詰主任を務める傍ら、肥前大川内窯（現在の佐賀県伊万里市）にて柴田鴨脚に学び、さらに京都で粟田焼の技巧をも習得。こうして東西の陶芸技術を融合させた独自の作風を確立しました。

明治14年（1881年）には、姫路近郊・糸引村兼田の土を用いて、素朴で温もりある手捻り陶器「鷺脚焼」を創始。その名の通り、優雅な鷺の脚のように繊細で伸びやかな造形と、詩情豊かな浮彫が特徴です。

本作は、自然の風景を浮彫りで表現した湯沸。山間の茅葺の庵と老松が配された意匠は、まるで一幅の山水画を見るかのよう。持ち手や蓋の意匠にも木目が細やかに刻まれ、職人の技と心がひとつに宿っています。

明治という時代の中で、静かに生まれ、そして消えていった「鷺脚焼」。

その美しさは今なお色褪せることなく、深い余韻を残しながら、現代の私たちに語りかけてくるようです。